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札幌高等裁判所 昭和31年(ラ)38号 決定 1956年7月16日

抗告人 広川十郎

訴訟代理人 庭山四郎

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告人の抗告の趣旨ならびに理由は、別紙記載のとおりである。

(一)  申請人(本件抗告人以下単に申請人という)と被申請人同和火災海上保険株式会社(以下単に被申請人という)間の札幌地方裁判所昭和三〇年(ヨ)第二二五号改造工事等妨害禁止仮処分申請事件につき、同裁判所は、同年一〇月二一日申請人に保証として金一〇万円を供託させて、次のような仮処分決定をした。

(イ)  被申請人は、申請人が札幌市南一条西四丁目三番地家屋番号二三番木造亜鉛鍍金鋼板葺二階建モルタル診療所建坪二四坪一合二勺外二階二〇坪三合同上附属木造亜鉛鍍金鋼板葺二階建居宅建坪一六坪外二階一六坪の建物についてする内部の改造工事および正面外側の修理工事を妨害する一切の所為をしてはならない。

(ロ)  申請人の委任する執行吏は、前項の趣旨を公示するため適当な方法をとることができる。

(二)  右仮処分決定は、昭和三〇年一〇月二八日被申請人に送達された。

以上の事実は、本件記録上明白である。前記仮処分命令中(イ)は被申請人に不作為を命ずるものであつて、その執行は、その命令が被申請人に送達された時に完了し、その後は申請人といえども単独で右執行を除去することができず、もしこれを除去せんとせば、執行裁判所である原裁判所にその取消を求めて、これが取消決定を得なければならないものと解するのが相当である。しかるに申請人においてかかる手続をとつていないことは、記録に徴し明瞭であるから右不作為を命ずる仮処分執行は、今なお存続しているものといわなくてはならないのである。したがつて、前記仮処分事件を目して、民事訴訟法第一一五条第三項にいわゆる「訴訟の完結」を見るに至つたものということができない。もつとも記録によると、申請人は、先に執行吏に委任してなした本件仮処分命令中前記(ロ)の公示方法につき、昭和三一年一月一四日これを解放したことが明らかであるけれども、このことは、前記不作為を命ずる仮処分の執行の取消とはならないのである。

されば、前記仮処分事件が完結したことを前提とする本件担保取消の申立は、その余の点を判断するまでもなく失当として棄却を免れない。原決定の理由は、叙上の理由と異なるけれども、結局、本件担保取消の申立を却下(棄却の趣旨と解す)したのは相当である。

よつて民事訴訟法第四一四条第三八四条第九五条第八九条に従い主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 猪股薫 裁判官 臼居直道 裁判官 安久津武人)

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